
1981年以来、癌死亡は死亡原因の第1位です。癌死亡の中では、胃癌死亡が長年トップの座にありましたが、昨年(1998年)には肺癌死亡が胃癌死亡を抜きトップとなりました。増え続ける肺癌の治療成績が十分に上がっていないことが、この結果になっていると考えます。肺癌対策は急務です。
現在行われている肺癌治療は、手術・抗癌剤・放射線治療等を単独あるいは併用して行われています。しかし、その効果は限界が来ています。また免疫療法,遺伝子治療はまだ現実的ではありません。ではどのような肺癌が治っているのかと言えば、癌の進行の程度が低い小さな比較的早期の肺癌の場合のみです。例えば、以下のようなデータがあります。
| 2cm以下の大きさの肺癌の治癒率: | 80~90% |
| 1.5cm以下: | 90%~ |
| 1cm以下: | 100% |
肺癌に対する戦略としては、画期的な治療法の開発が待ち望まれるところですが、現状では、今ある治療法で治る小型肺癌を見つけることが最も効果的な対策と考えられます。すなわち、肺癌検診に期待がかけられます。
昨年、厚生省は今までの癌検診の有効性を評価し報告しました。それによると、胃癌検診,子宮頚癌検診は有効であったが、肺癌検診は不十分であったと評価しています。検診で発見された癌のうち治る癌の割合が胃癌が70%,子宮頚癌が90%以上であったのに対し、肺癌では30%程度であったからです。現在行われている肺癌検診は胸部レントゲン写真(間接撮影)に喀痰細胞診が組み合わされていますが、この検診方法では治る癌を見つけ出すことに限界があると言うことです。新たな検診手段を取り入れる必要性に迫られています。
従来から検診に用いられていた胸部単純X線写真の問題点を、以下に示します。
一方、CTは解像力に優れ、死角はなく、数ミリの病変を検出する事が出来ます(5mmの病変なら確実に検出)。すなわち早期の治る肺癌の発見率が上がります。
| 通常の肺癌集団検診(間接撮影,細胞診) | 例年、1000人~2000人の検診者から1人 |
| 当院における肺癌CT検診 | 期間:平成10年8月~17年12月 受診者数:6,009人 発見肺癌:13人(早期11人) |
両群には検診受診者の肺癌検診に対する意識レベルの差(受動か能動か、喫煙者、近親者の肺癌、自覚症状など)があり、単純比較はできません。とは言え、我々はヘリカルCT肺癌検診により、早期肺癌発見率向上の手応えを実感しています。また小さな肺癌を見つけることは、肺癌が治るだけではなく、手術方法として、体に優しい胸腔鏡下手術等の縮小手術の選択も可能になります。そのことは医療費の軽減にもつながります。さらに、慢性呼吸器疾患,炎症等の病変も同時に検出できます。例えば喫煙との関係が肺癌以上に問題視されている肺気腫の検出にも優れ、禁煙の啓蒙にも役立ちます。そしてCTで異常がないと診断された時、確かな安心が得られます。
肺癌検診にヘリカルCTを導入することで問題となることは安全性、経済性、件数処理能力があげられます。その中で特に留意しなければならないのは安全性すなわち放射線被曝の問題です。ヘリカルCTの検診レベルの被曝線量は一検査あたりおおよそ35ミリシーベルトです。これは胸部間接撮影検査の10回分にあたります。従来の肺癌検診より被曝線量は多くなります。しかし、胃癌検診で行われている造影検査よりは少ない被曝線量です。今のところ胃癌検診の被曝線量は公的には問題視されていません。条件設定を検討し、ヘリカルCTの低線量化を図って、できるだけ被曝線量を少なくするように努力しています。